時は、西暦2033年。
巨万の富を築き上げた裕先生。二冊目の小説「夜の成れの果て」、こちらも八億部の世界ベストセラーとなり、自分でもいくら口座に入っているのかまったく分からない。あの、ルビゲイツを追い越してしまったのである。とはいえ、七十年以上の貧乏暮らし。そんな突然金持ちシフトになるわけがないし、成金シフトにさえならない。
元々の趣味だったブログ書きも、ベーベル文学賞受賞後は中止を余儀なくされた。
可哀想な裕先生。一日の閲覧数が多い日で20。PVが同じく50。日本ブログ村での順位が20位辺り。裕イサオ「たわしはヤノピだ」。二十年以上、毎日のように書いていたのであるが、受賞後の閲覧数が800000000000000000000000000000000000000000000000000000を超え、PV1600000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000となり、コメントの数が一日二千万と、ブログサイト自体が爆発してしまったのである。村長から丁寧な中止願いの連絡が来た。止むを得ない、中止した。
二十年来出演していたパリのジャズクラブ、ビバロ。こちらも出演できなくなってしまった。
最寄の地下鉄の駅からビバロまでの大群衆。当然、クラブに入れない。それ以前に、裕先生自身が辿り着けないという事態と相成った。パリ市長から、丁寧な中止願いの手紙が来た。止むを得ない、中止した。
可哀想な裕先生。フランススタジアムでのコンサート依頼が、毎日のようにレコード会社から来る。「俺、やだよぉー、六万人の観衆なんてよぉー」とすべて断る。テレビ局からも毎日のように連絡が来る。そまぁーずとの共演だけ、ちょっと、心が動いたが、やはり、すべてお断り。
「あなた、ロイビィトンのカバン買っていい?」
「なに、それ? ユニコロと違うの?」
「違うわよ。ロイビィトン、パリの。ねぇー、いいでしょ?」
「どうぞっ」
「値段聞かないの?」
「聞いたって仕方ないでしょ」
「六十万円っ。高い高いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃでしょ?」
「六十万って、どれぐらいの価値なんだっけ? 覚えていないよ」
急に、妻のマミがテーブルに突っ伏した。
「えーーーーーーん、夜があった頃が懐かしいぃーーー、貧乏だった頃がぁーーー」
作者解説
裕先生の御資産は、今や十五兆円を越えており、六十万円の相対的な価値は、
我々庶民感覚では、六銭相当なのであります。そんな裕先生ですが、相変わらず、ホンダチビック1997年モデルに乗り、時々、銀行に100euroを引き出しに行くのであります。頭取、副頭取、行員一同が整列する物々しい雰囲気の中の100euro。裕先生が財布にしまうと、全員、九十度のお辞儀。やることがなくなってしまったので、着流しで、お散歩。お料理、庭の草むしりの毎日。
日本のお茶山賞受賞作川口一平「清い心」のモデルは、この裕先生だと著者本人が公言しているのであった。
「ねえ、あなた、ブログもいいけど、ショートショートその2、早く書きなさいって!」
「えっ、あー、浮気センサーっていうやつね、もう、ほとんどできてるもぉーん」
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