吉岡実詩集「静物(1955年)」より、詩「静物」抜粋。
夜はいっそう遠巻きにする
魚の中に
仮に置かれた
骨たちが
星のある海をぬけだし
皿のうえで
ひそかに解体する
灯りは
他の皿へ移る
そこに生の飢餓は享けつがれる
その皿のくぼみに
最初はかげを
次に卵を呼び入れる
吉岡さんは、私が師と仰ぐ人物のひとりである。
まず、吉岡さんの顔が好きだ。カフカ的な美男子である。
小柄で細身。厳しさと優しさが共存している。確実に、自分に厳しく、他人に寛容な人の顔である。人格者。ペダントリー、張ったり、こけおどし、こういったものを感じない。表自信も裏自信も感じない。普通にそこにいる。こういう人は、めったにいない。もうひとりの私の師、フランス人、マルセル デュシャンにも、同じ雰囲気を感じる。
余談になるが、吉岡さんとデュシャンのインタビューにいくつかの共通点がある。
回答が、実にシンプル。どちらも、超難解な詩人、および、超絶的に難解な現代美術家と世間では呼ばれている。たとえば、吉岡さん1)「読書量は?」「一月に一冊ぐらいかな」。デュシャン2)「昼間は何をなさっていますか」「何も。せかせか動きまわっています(後略)」。
このふたりの回答は、すべて、こうだ。この途轍もない自然体。
話を戻そう。
この「静物」という詩集の中に、同名の詩が四篇ある。
抜粋させて頂いたのは、二番目のもの。
吉岡さんの詩への、ほとんど代名詞と化した言説。
先記の超難解。暗黒、グロテスク、奇怪、凄惨、苦痛。
諸々の「吉岡実詩論」がある。
私の中の吉岡さん。純真、腕白、子供の目、愛情たっぷりのカメラアイ(矛盾していない)、驚き、きらきらした目etcetc
私には、まったく難解ではない。
視覚的な音楽として、内奥にすっと入って来る。
お化け屋敷に、迷い込んだ子供が、びっくりしたり、笑ったり、どきどきしたり、それが、そのまま活写されている。
お化け屋敷?
そう、我々が住んでいる「世界」と呼ばれるもの。
この腕白坊主の目には、そう、映った。
しゃらくさくない詩を書く、稀な人だ。
追記
吉岡さんとデュシャンについては、きちんと書きたいと思う。
出展
1)現代詩文庫14 「吉岡実詩集」思潮社1968
吉岡実氏に76の質問 高橋睦朗
2)「デュシャンの世界」朝日出版社1978
マルセル デュシャン+ピエール カバンヌ
岩佐鉄男+小林康夫訳
0 件のコメント:
コメントを投稿